作詞・作曲をした作者、マンガを描いた作者、小説を書いた作者のことを、著作権法的には「著作者」といい、著作者は、「著作権」(財産的な権利)と「著作者人格権」(精神的な権利)という2種類の権利をもつこと、
そして、「著作権」は、「複製権」「上演権」「公衆送信権」などの「支分権」が集まった権利だということ
を第3回で説明しました。
今回は、著作権の主な支分権である「複製権」「上演権(演奏権)」「公衆送信権」「貸与権」「翻案権」「二次的著作物の利用に関する権利」の6つを説明します。
ちょっと長いですが、がんばって読んでみてください。
「複製権」とは、著作権者だけが、著作物を複製することができるという権利です(21条)。
「著作権」は英語でCOPY RIGHTというくらいですから、コピーの権利、つまり「複製権」が著作権の中心的な支分権です。
著作権は譲渡可能なので、「著作者」(作品を制作した人)以外の人や会社が「著作権者」になっている場合があります。この場合、複製権をもつのは、著作者ではなく、その「著作権者」になります。
著作権者「だけが」というところがポイントです。言い方を変えると、ある著作物の著作権者は、著作権者以外の人が勝手にその著作物を複製することを「禁止」することができるということです。さらに言い換えると、著作物を複製するためには、著作権者の許諾が必要ということになります。
これを「専有権」といいます。他の支分権も、全て「専有権」です。
たとえば、自分が作曲した楽曲を、悪い業者が勝手にCDにして販売していた場合、「複製権」を根拠に、「自分の楽曲を勝手にCDにするな(複製するな)」と言うことができます。
ちなみに、ここでの「複製」とは、このように楽曲をデータとしてコピーする場合だけでなく、スマートフォンなどで録音することや、楽譜にすることも含まれます。
「複製権」には、大きな例外があり、「私的複製」であれば許されるとされています(30条)。ただ、「私的複製」についてはいろんな問題があり、頻繁に改正されています。これについては第6回で解説します。
「上演権(演奏権)」とは、著作権者だけが、著作物を公衆の前で上演(演奏)することができるという権利です(22条)。
これも、複製権と同じように「専有権」ですので、著作物を公衆の前で演奏するためには著作権者の許諾が必要ということです。
ですので、たとえば、自分が作った脚本が、全く知らないところで勝手に演劇で上演されていた場合、「上演権」を根拠に、「自分の脚本を勝手に上演するな」と言うことができます。
「公衆の前で」というところがポイントです。家族や数人の知人の前で上演するだけであれば、「公衆の前」ではないので、「上演権」侵害になりません。
音楽の実演の場合は、「演奏権」という言葉を使います。音楽ビジネスで非常によく使う言葉です。ちなみに、「演奏」と言っても、楽器の演奏だけではなく、歌を歌うことや、CDを再生することも含みます。カラオケ店のカラオケ機器の演奏も、「演奏」です。
「上演権(演奏権)」にも例外があって、公衆の前での上演であっても、非営利で料金を徴収せず、出演者にも報酬を支払わない場合は、上演権侵害になりません。第6回で説明します。
「公衆送信権」とは、著作権者だけが、著作物を、テレビ・ラジオなどの放送や、インターネットなどで公衆へ送信することができるという権利です(23条)。
映画や音楽などの著作物を勝手にテレビ・ラジオで放送したり、インターネット上にアップロードすることは、公衆送信権の侵害になります。
たとえば、自分が描いたマンガが、漫画村のようなサイトで勝手にアップロードされていた場合、「公衆送信権」を根拠に、「自分のマンガを勝手にアップロードするな(公衆送信するな)」と言うことができます。違法アップロードで逮捕されるケースは、よくニュースになりますね。
ちなみに、動画投稿サイトに楽曲をアップロードすることもその楽曲の著作権者の「公衆送信権」侵害になるので、YouTubeやニコニコ動画は、JASRACやNexToneときちんと契約しています。
ですので、JASRACやNexToneが管理している楽曲であれば、自分で歌ったり演奏したりして、動画をアップロードしても大丈夫です。ただし、CDの音源をアップロードしてはダメです。
「貸与権」とは、著作権者だけが、著作物の複製物を、貸与により公衆へ提供することができるという権利です(26条の3)。
要は、CDのレンタルが典型例です。CDのレンタルで商売をするには、著作権者の許諾が必要ということです。ですので、CDレンタル店は、JASRACやNexToneにきちんとお金を支払っています。
「公衆へ」という縛りがあるので、個人間での貸し借りは貸与権侵害にはなりません。ここは、個人的に楽しむための複製や、知人での演奏会がOKなのと同じイメージですね。
「翻案権」とは、著作権者だけが、著作物を翻案(改変、アレンジ)することができるという権利です(26条の3)。
音楽の場合「編曲権」と呼ぶこともありますが、「翻案権」の方が汎用性が高い言葉ですので、実務的には音楽の場合を含めて「翻案権」と呼ぶことが多いです。
「翻案権」があるので、小説を映画化したり、マンガをアニメ化したり、楽曲をカバーしたりする場合は、その小説家さんやマンガ家さん、作曲家さんなどの原作者の許諾が必要になります。
たとえば、あるマンガのマンガ家(Aさん)のマンガ作品があります。B製作委員会が、Aさんの許諾を得て、マンガをアニメ化したとします。
この場合、マンガが「原著作物」、アニメが「二次的著作物」になりますね。
そして、そのアニメがヒットしたので、ゲーム会社のC社が、そのアニメのゲームを制作したいと思いました。
このとき、もちろん、C社は、B製作委員会の許諾を得る必要があります。
このとき、注意すべきなのは、法律上、C社は、Bアニメ製作委員会だけでなく、Aさんの許諾も得る必要があるということです。
このように、原著作者(Aさん)は、自分の作ったマンガ(原著作物)だけでなく、Bアニメ製作委員会の作ったアニメ作品(二次的著作物)についても権利を及ぼすことができるわけです。
これを、ちょっと長いですが、「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」(28条)などと呼びます。
このように、原著作者はかなり強い権利をもっていますので、あらかじめAさんとB製作委員会との間で、アニメ作品の利用について契約で定めておくことが多々あります。
以上のような著作権(の支分権)が侵害された場合、著作権者は、
①差止請求(112条)
と
②損害賠償請求(民法709条)
をすることができます。意外に著作権法には「著作権侵害に対しては損害賠償請求できる」という条文がないので、民法が根拠条文になります。ただし、「いくら分の損害を被ったか」という損害の「金額」については、詳細な推定規定があります(114条)。
また、著作権侵害については、刑事罰の規定もあります(119条)。条文上は、「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、または併科」というもので、けっこう重いです。
著作権侵害で刑事事件になるのは、海賊版CDやDVDを販売したり、インターネット上に違法アップロードするなどの「複製権」侵害、「公衆送信権」侵害の場合がほとんどではないかと思います。
今回は著作権の主な支分権を解説しました。
ほかにも支分権はあるのですが、最低限これらを押さえていただければと思います。
次回は、これらの著作権の主張ができない場合(著作権が制限される場合)について説明します。
おわり