前回、実演家の権利について詳しく見てみました。
今回は、レコード製作者の権利について説明します。音楽業界で「原盤権」と言われる権利です。「著作権」にならび、とても重要なところです。
「レコード製作者」とは、著作権法上は、レコード(CD)原盤の音源を最初に固定した者(会社)のことです(2条1項6号)。
実務的には、レコーディングスタジオやミュージシャンを手配して、レコーディングからマスタリングまでを行い、原盤制作を行った会社のことです。
もっとも、実際にレコーディングを行った会社がレコード製作者というわけではありません。音楽ビジネスの話なので、結局はお金の問題で、原盤制作費を負担した会社が原盤権者だと言っていいと思います。
昔はレコード会社が原盤制作費を出して自社スタジオでレコーディングしていたのですが、現在は、レコード会社だけでなく、音楽出版社やアーティストのプロダクションも費用を出し合って、外部のスタジオなどでレコーディングしています。
この場合、レコード会社、音楽出版社、プロダクションが、原盤を共有している形になります。
もっとも、最終的には原盤権はレコード会社に集約され、レコード会社が原盤権を管理しています。
レコード製作者は、主な「著作隣接権」として、「複製権」(96条)、「送信可能化権」(96条の2)「貸与権」(97条の3)などの著作隣接権をもちます(他にもいくつかあります)。
また、「二次使用料請求権」(97条)、「貸与報酬請求権」(97条の3)という一定の使用料・報酬を請求できる権利があります。これらの権利と著作隣接権との違いは、お金を請求することができるだけの権利であり、侵害者に対する差止請求や損害賠償請求が認められるわけではないところです。
これらをひっくるめて、音楽業界では「原盤権」と呼ばれています。
このように、レコード製作者の権利は、実演家の権利と非常に似ています。もっとも、実演家には「実演家の人格権」がありますが、レコード製作者には人格権はありません。
ちなみに、ここでは音楽を収録した音源(レコード)を前提としていますが、音楽に限りませんし、それどころか、著作物以外が収録された音源であっても、レコード製作者の権利は発生します。
たとえば、雨音や風音などの環境音やインパクト音などの効果音は「著作物」ではありませんが、それを収録した人は、レコード製作者として、レコード製作者の権利をもちます。
この連載では、レコード製作者の主な著作隣接権を説明します。
レコード製作者は、制作したレコード音源を複製する権利を専有します。
この権利を「複製権」といいます(96条)。
ですので、音楽CDやライブのDVDなどの海賊版を製造することは、レコード製作者の「複製権」の侵害になります。
また、クラブミュージックのように、市販のCDの音をサンプリングして他の楽曲を作ることも、レコード製作者の「複製権」を侵害することになります。
このような場合、レコード製作者は、複製権を侵害した相手に対して、差止請求・損害賠償請求を行うことができます。これは、他の著作隣接権が侵害された場合も同様です。
著作権の支分権にも中心的な権利として「複製権」がありましたし、実演家の権利にも「録音権・録画権」がありました。それと同様の権利です。
著作権の支分権の「複製権」と同じように、私的使用目的であれば、録音・録画が可能です(102条1項)。
レコード製作者は、制作したレコード音源をインターネット上にアップロードする権利を専有します。
この権利を「送信可能化権」といいます(96条の2)。
ですので、無断で、CD音源やDVD動画をインターネット上にアップロードすると、送信可能化権の侵害になります。
注意する必要があるのは、YouTubeやニコニコ動画などの動画サイトです。
YouTubeやニコニコ動画は、JASRACやNexToneと包括契約をしているので、楽曲の「著作権」は許諾を受けています。
しかし、「原盤権」については許諾を受けていません。ですので、CD音源をそのままYouTubeやニコニコ動画にアップロードするのは、レコード製作者の「送信可能化権」の侵害になってしまいます。
ですので、権利者が申し立てると削除されてしまうため、そうならないように、YouTubeには、CD音源そっくりなカバーがよくアップされているわけです。
レコード製作者は、制作したレコード音源(CD)を貸与により公衆に提供する権利を専有します。
この権利を「貸与権」といいます(96条の3)。
実演家の権利の「貸与権」と同様、レコード製作者の「貸与権」は、CDの発売日から1年間のみ効力があります。それ以降は、レンタルCD業者に対して報酬を請求することができるだけです。
このように、レコード製作者は、CDの発売日から1年間は、レンタルCD業者に対して「うちのCDを取り扱うな」と言えるわけです。
ただ、実際は、CDの発売日から数日で、レンタルCD店でCDをレンタルすることができますよね。
これは、レコード会社の団体である「レコード協会」とレンタルCD業者の団体である「日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合」との間で合意して、レンタル禁止期間を0日~21日間にしているためです。
ちなみに、海外のレコード会社とはこのような合意はありませんので、洋楽のCDは、1年間はレンタルCD店でレンタルできないようになっています。
あと、ちょっと注意する点として、「著作権」の「貸与権」は1年間ではありません。「著作権」の「貸与権」は、著作権の存続期間中、ずっと存続します。
もっとも、著作権を実際に管理しているJASRACやNexToneはレンタルCD店から著作権使用料を徴収してレンタルを許諾しているので、結局お金の問題だけになっています。
レコード製作者の著作隣接権が侵害された場合の話は、実演家の著作隣接権が侵害された場合と同様です(第9回で説明しました)。
ただ、実演家の場合と異なり、レコード製作者には人格権はありませんので、人格権侵害の問題も出てきません。
レコード製作者の権利(原盤権)は、あくまで「その音源」についての権利です。楽曲の歌詞やメロディについての権利ではありません。
CDには、楽曲(歌詞・メロディ)の権利である「著作権」と、その楽曲がレコーディングされた音源の権利である「原盤権」の両方が含まれているわけです。
たとえば、高木が「りんねのね」という楽曲を作詞・作曲して、Bレコード会社が原盤制作を行ったとします。
そのCD音源が無断で違法サイトにアップロードされているとき、高木は、「著作権」の「公衆送信権」に基づき、「勝手にアップロードするな」といえます。
また、Bレコード会社も、「レコード製作者の著作隣接権」の「送信可能化権」に基づき、「勝手にアップロードするな」といえます。
他方、そのCD音源ではなく、誰かが「りんねのね」をピアノやギターで弾き語りをした動画をアップロードした場合、高木は「著作権」の「公衆送信権」に基づき、「勝手にアップロードするな」といえますが、Bレコード会社は何もいえません。CD音源がアップロードされているわけではないため、「原盤権」の侵害はないからです。
また、「りんねのね」がカラオケで歌われた場合、高木は「著作権」の使用料をもらうことができます(基本的にはJASRACやNexTone経由です)。
しかし、カラオケ音源はCD音源ではないので、Bレコード会社には1円も入ってきません。
このように、「著作権」と「原盤権」は、まったく異なる権利です。
あと、注意してほしいのは、実演家の著作隣接権と同様、原盤権には、「演奏権」がありません。
ですので、たとえば、市販の音楽CDをホテルのロビーで流したり、クラブでDJがプレイする場合、「著作権」の「演奏権」の侵害になりますが、(CD音源を複製しない限りは)原盤権の侵害にはなりません。
今回、レコード製作者の著作隣接権について解説しました。非常に重要なところですので、よく理解していただければと思います。
おわり