少しさかのぼりますが、第3回で、財産的権利である「著作権」は譲渡することができ、他方、精神的な権利である著作者人格権は譲渡することができない、という話をしました。
つまり、財産的権利である「著作権」は、取引の対象になるわけです。
今回は、「著作権」の取引について詳しくお話しようと思います。
著作権は、譲渡することができます(61条1項)。所有権を譲渡することができるのと同じです。
ちなみに、「譲渡」というとタダで物をあげることをイメージしがちですが、法律的には、「譲渡」とは「権利を移転する」という意味です。ですので、有料(有償)で渡す場合も「譲渡」です。たとえば、僕が楽器屋さんでドラムを買った場合、法律的には「楽器屋さんが僕にドラムの所有権を譲渡して、僕がその対価としてお金を支払った」ということになります。
特に音楽ビジネスの世界では、著作権はどんどん譲渡されます。著作者でない人が著作権をもっていることが当たり前になっています。
また、著作権の支分権の一部を譲渡したり、一定期間だけ譲渡するということも可能です。たとえば、「演奏権だけを譲渡する」「10年間だけ譲渡する」などです。
音楽ビジネスの世界でも、このような契約が行われています。このあたりはまた別の機会に詳しく説明します。
ところで、ちょっと専門的な話になりますが、著作権の譲渡には、61条2項という、とても重要な条文があります。
これは、単に「著作権を譲渡する」という契約をしただけでは、「翻案権」(27条)と「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」(28条)の2つの支分権は譲渡されない(留保される)と推定される、という条項です。
「翻案権」(27条)と「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」(28条)の内容は第5回で説明しました。
この条項があるので、「翻案権」や「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」も含めて著作権を譲渡する場合には、契約書に、「著作権(著作権法第27条および第28条所定の各権利も含む)を譲渡する」と記載しておく必要があります。
契約書を作成する人にとっては、とても注意しなければならない規定です。
著作者は、著作権を譲渡することができるのと同様、相手方に著作物の利用を許諾することができます。
「利用許諾」の場合、著作権の「譲渡」はしません。文字通り、「この著作物を利用してもいいよ」と許諾するわけです。
著作物の「利用許諾」は、著作権の譲渡と同じくらい、またはそれ以上に一般的な著作権の取引方法です。
著作物の「利用許諾」の契約をする場合は、具体的な利用許諾の範囲を定めることが必要です。たとえば、マンガのアニメ化の場合、「TV放送用の12回のアニメを制作すること、そのアニメをTVで放送すること、そのアニメのキャラクターを商品化して販売すること」というように、利用許諾の範囲を決めていきます。
そして、「利用許諾」の場合、「独占的利用許諾」か、それとも「非独占的利用許諾」かという点がとても重要です。
著作権者が「あなただけに許諾しますよ」という場合が独占的利用許諾です。「他の人にも許諾するかもしれないよ」という場合が非独占的利用許諾です。
たとえば、マンガのアニメ化の場合、アニメ製作委員会としては、マンガ家さんが、他の製作委員会にもアニメ化を利用許諾してはたまったものではありません。
また、マンガ家さんとしても、通常は、ひとつの製作委員会にアニメ化してもらえば十分であり、たくさんの製作委員会によりアニメが制作されるメリットはありません。
ですので、アニメ製作委員会は、マンガ家さんに、「他の第三者には、このマンガのアニメ化を利用許諾してはいけませんよ」という「独占的利用許諾」を求めます。
他方、たくさんのイラストを制作していて、いろんな会社にそのイラストを使ってもらいたいというイラストレーターさんもいます。「いらすとや」さんが典型例ですね。
「いらすとや」さんは、ある会社だけにイラスト素材の利用を許諾しているのではなく、多くの利用者が利用できるようにしています。
つまり、「いらすとや」さんは利用者の皆さんに対して「非独占的利用許諾」をしているわけです。
最近流行っている写真のストックフォトのビジネスも同じですね。
このように、「独占的利用許諾」と「非独占的利用許諾」のどちらにするべきかは、ビジネススタイルによって違ってきます。もちろん、当事者の力関係によっても違ってきます。
以上のように、著作権の取引としては、著作権の「譲渡」と「利用許諾」があると覚えていただければと思います。
それ以外にも、著作権法には、「出版権」(79条以下)などの規定も置いていますが、まずは「譲渡」と「利用許諾」が重要です。
おわり