著作権法の1番わかりやすい解説 第9回 実演家の権利 | 渋谷カケル法律事務所

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著作権法の1番わかりやすい解説 第9回 実演家の権利

2019年2月28日

この連載も、いよいよ終盤です。あと3回なのでがんばって読み進めてください。

この連載を読めば、著作権法のことは、ずいぶんマスターすることができ、いろんな著作権法の記事なども理解できるようになると思います。

1. 実演家、レコード制作者の権利の概要

これまで、作詞・作曲をすると「著作権」と「著作者人格権」が発生するということで、その内容を詳しく説明してきました。

その楽曲がCDになるとします。

その楽曲をCDにするに際して、歌を歌ったメインアーティスト、ギターやベースを弾いたバックミュージシャン(著作権法上、「実演家」といいます)には、「著作権」や「著作者人格権」は発生しません。

同様に、レコーディングを行ってCD音源を制作したレコード会社(著作権法上、「レコード製作者」といいます)にも、「著作権」や「著作者人格権」は発生しません。

意外かもしれませんが、音楽の場合、作詞・作曲や編曲をした場合以外は、基本的に著作権は発生しないのです。

しかし、これでは、たとえば、そのCDの不正コピーに対して、アーティストやレコード会社が法的措置を取れない、ということになってしまいます。

そうならないように、著作権法上、実演家やレコード製作者には、著作権に似た「著作隣接権」などの権利が定められています。

同様に、CD音源を放送した放送局(放送事業者・有線放送事業者)も、一定の「著作隣接権」を保有しますが、これは細かいので省略します。

2. 実演家の権利

楽曲を歌う人(メインアーティスト)、オケを演奏する人(バックミュージシャン)は、「実演家」と呼びます。

メインアーティストもバックミュージシャンも、著作権法上は、同じ「実演家」という位置づけです。

また、クラッシックの指揮者やダンサーも「実演家」です。音楽以外では、俳優や声優、舞踏家、マジシャンなども「実演家」です。

実演家には、主な「著作隣接権」として、「録音権・録画権」(91条1項)、「送信可能化権」(92条の2)、「貸与権」(95条の3)などがあります(他にもいくつかあります)。

また、実演家には、著作隣接権ではありませんが、「二次使用料請求権」(95条)、「貸与報酬請求権」(95条の3)という一定の使用料・報酬を請求できる権利があります。

著作隣接権との違いは、お金を請求することができるだけであり、侵害者に対する差止請求や損害賠償請求が認められるわけではないところです。

さらに、実演家には、「実演家人格権」(90条の2、90条の3、101条の3)という、著作者人格権に似た一身専属的な権利があります。もっとも、著作者人格権ほど強力な権利ではないし、実務上はなかなか行使されることのない権利です。

「著作隣接権」と「使用料・報酬を請求できる権利」は譲渡可能なのに対して、「実演家人格権」は譲渡することができません。これは著作者人格権が譲渡できないのと同じです。

このように様々な権利がありますが、今回の連載ではこれらの権利は省略して、主な著作隣接権の内容である「録音権・録画権」、「送信可能化権」、「貸与権」を説明します。

3. 録音権・録画権

実演家は、自分の実演を録音したり録画したりする権利を専有します。

この権利を「録音権・録画権」といいます(91条1項)。

文字どおり、「録音権」は音に関して、「録画権」が映像に関しての権利です。

たとえば、無断で、ミュージシャンの歌唱や演奏を録音したり、海賊版CDを作ることは、「録音権」の侵害になります。

実演家は、「勝手に、自分の実演が入った音源を録音(複製)するな!」といえるわけです。

また、ライブを無断で録画したり、ライブのDVDの海賊版を製造することは、「録画権」の侵害になります。

実演家は、「勝手に、自分の実演が入った映像を録画(複製)複製するな!」といえるわけです。

このような場合、実演家は、録音権・録画権を侵害した相手に対して、差止請求・損害賠償請求を行うことができます。これは、他の著作隣接権が侵害された場合も同様です。

著作権の支分権で出てきた「複製権」と同様のイメージをもっていただければと思います。「複製権」と同じように、私的使用目的であれば、録音・録画が可能です(102条1項)。

ちなみに、コンサートでアーティストの写真を撮っただけの場合は、「録音」でも「録画」でもないので、著作権法上は、違法ではありません。(ただし、規約違反や肖像権侵害などの問題はあります)

4. 送信可能化権

実演家は、自分の実演をインターネット上にアップロードする権利専有します。

この権利を「送信可能化権」といいます(92条の2)。

ですので、無断で、ミュージシャンが歌ったり演奏したりしている音源や動画をインターネット上にアップロードすると、送信可能化権の侵害になります。

著作権の支分権の「公衆送信権」と同様のイメージです。

5. 貸与権

実演家は、自分の実演が録音されているCDを貸与により公衆に提供する権利専有します。

この権利を「貸与権」といいます(95条の3)。

要は、実演家は、「自分の演奏が収録されたCDを、勝手にレンタルCD店で取り扱うな」といえるということです。

ちなみに、細かいところですが、実演家の貸与権は、音楽CDだけに適用されます。ミュージックビデオ(MV)などの映像作品には適用されないのです。

また、貸与権は、CDの発売日から1年間のみ効力があります。それ以降は、レンタルCD業者に対して報酬を請求することができるだけです。

つまり、著作隣接権は1年間だけで、それ以降は報酬請求権に変わる、というちょっと変わった権利です。

もっとも、実務上は、「勝手にレンタルするな!」という形では貸与権は行使されておらず、報酬請求権のみが行使されています。

ですので、レンタルCDは、発売日から1年も待たずに、すぐにレンタルCDショップでレンタルすることができるわけです。このあたりはちょっと複雑なので、また改めて解説しようと思います。

6. 著作隣接権・実演家人格権が侵害された場合

著作隣接権が侵害された場合、権利者は、①差止請求(112条)と②損害賠償請求(民法709条)をすることができます。

また、著作隣接権の侵害については刑事罰の規定もあり(119条)、「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、または併科」とされています。

これは、著作権が侵害された場合と同様です(第5回で説明しました)。

実演家人格権が侵害された場合は、著作者人格権が侵害された場合と同様です(第8回で説明しました)。

7. 実演家の著作隣接権の特徴

このように、実演家にも著作権に似た様々な著作隣接権がありますが、基本的には、一度、実演家が許諾した上で実演がCDに収録された場合、そのCDが放送で使用されたり音楽配信されても、著作隣接権は及ばないようになっています。

このように、「一度許諾したら、それ以降は著作隣接権は及ばない」という考え方をワンチャンス主義といいます。

また、注意すべきなのは、実演家の著作隣接権には、著作権の支分権でいうところの「演奏権」に該当するものがありません。

ですので、たとえば、音楽CDを、飲食店のBGMに使ったり、コンサートで流したりする場合、著作権者の許諾は必要ですが、実演家の許諾は不要です。

音楽業界では、実演家の著作隣接権は、レコード会社などのレコード製作者に譲渡される(買い取られる)形をとっています。また、ワンチャンス主義もあいまって、実際は、実演家の著作隣接権が行使されるという場面は非常に少ないです。

重要なのは、著作権法上はメインアーティストもバックミュージシャンも同じ「実演家」であること、実演家にも著作隣接権や実演家の人格権などの権利があるということです。この点を憶えていただければと思います。

次回説明するレコード製作者の著作隣接権が、非常に重要です。

おわり

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