これまで、著作物を作った人が「著作者」になり、「著作権」と「著作者人格権」をもつ、という話をしました。
これには2つの例外があります。
1つは、職務著作と言われるもの。もう1つは映画の著作物です。
この2つは、実際に著作物を作った人でない人が「著作者」になったり、「著作権」をもったりします。
職務著作(15条)とは、簡単に言うと、会社に勤務している人が、会社の業務で著作物を作った場合は、その会社が「著作者」になり、その会社が「著作権」を保有する、ということです。
たとえば、ゲーム制作会社に勤務している作曲家(会社員)の方が、そのゲーム会社の業務でゲーム音楽を制作したとします。このゲーム音楽は、その作曲家が著作者になるのではなく、ゲーム制作会社が著作者になるわけです。
同じように、実際に新聞記事を書いた新聞記者ではなく、新聞社が新聞記事の著作者になります。また、実際にテレビ番組を制作したプロデューサーさんやディレクターさんではなく、テレビ局がテレビ番組の著作者になるのも同様です。
もっとも、ゲーム会社に勤務している作曲家さんが休日に同人活動のために制作した楽曲までゲーム会社が著作者になるわけではありません。
「職務著作」になるには一定の要件があります。具体的には、
①法人その他使用者(「法人等」)の発意に基づくこと
②法人等の業務に従事する者(従業員など)であること
③職務上作成する著作物であること
④その法人等の名義で著作物を公表する(またはその予定の)場合であること
というすべての要件を満たす場合、「職務著作」になります。
よく質問されるのですが、作詞家や作曲家が所属する作家事務所は、基本的には作家は作家事務所の従業員ではありませんし、事務所名義で楽曲を公表することを予定していないので、②や④に当てはまらず、「職務著作」にはなりません。
ですので、作家事務所が作家さんの楽曲の著作権を保有するためには、マネジメント契約などで定めておく必要があります。
また、ゲーム制作会社の場合も、職務著作の要件を満たすかどうか微妙な場合などもあるので、念のため、雇用契約書や就業規則できちんと権利の帰属などを定めておくことが望ましいです。
小説や音楽などと同様、映画ももちろん「著作物」です。ここでいう「映画の著作物」とは、文字通りの「映画」だけではなく、テレビ番組などの映像作品や、ゲームも含まれます。
映画の場合、「著作者」と「著作権」はちょっと特殊です。
映画については、映画を作った人全員が共同で「著作者」になるわけではなく、映画全体の創作に関与した映画監督や撮影監督などの一部の人(「モダン・オーサー」と呼びます)が「著作者」になります(16条)。
映画は関与する人が多数になるので、「権利関係が複雑にならないように」という配慮から、こういう規定になっています。
そのため、その映画の原作者や、脚本家、劇伴作家など(「クラシカル・オーサー」と呼びます)は、その原作や脚本や音楽の著作者ですが、その「映画」の著作者ではありません。
そうすると、「映画監督や撮影監督が著作権をもつのかな」と思ってしまいますが、映画は著作権者も特殊で、「著作権」をもつのは、映画製作者(多くの場合は、映画製作会社)になります(29条1項)。
映画監督や撮影監督は「著作者」ですが、「著作権者」ではありません。このように、「著作者」と「著作権者」が始めからズレているわけです。
これは、「映画の制作には多額の費用がかかるので、制作費を負担した映画製作会社を権利者として保護するべき」という配慮から、こういう規定になっています。
今回は、『著作物を作った人が「著作者」になり、「著作権」と「著作者人格権」をもつ』ということの例外を解説しました。
次回、著作権の具体的な内容(支分権)について解説します。
おわり