私たちの生活の中で聞かないことのない音楽。
その中にももちろん著作権はあり、どこかで流れている音楽をどこが著作権管理しているのか、どのような手続がなされているのか等、ふと感じる小さな”ギモン”を調査していきたいと思います。
…といった連続物を書いてみようと思います!
今回のテーマは、「CDショップの中にある試聴機」です!!
目次
1. 試聴機について
2. 著作権は働くのか?
3. 著作権の手続は?
4. 原盤権は働くのか?
5. まとめ
みなさんもCDショップなどで一度は見たり使用したことがあるのではないでしょうか?
いくつかのCDが入っていて、ヘッドホンがついているアレです。
この試聴機は、CDショップに来店した人、誰もが無料でCDの曲を聴くことができ、CDショップとしては、その曲を聴いた人がCDを買ってくれれば儲けもの、という感覚のものです。
(かくいう筆者は見たことがありません…)
こんなにオープンになっているので、著作権が働きそうですし、原盤権についても気になります。そこで、著作権と原盤権が働くのかどうか、働くとしてどのような手続が必要なのか、検討していきたいと思います!!
著作権法22条にはこのように規定されています。
つまり、「公衆」に聞かせることを目的として、音楽を「演奏」するには、著作者(著作権者)の許諾が必要になります。著作権の支分権のひとつである「演奏権」が働くわけです。
ただ、試聴機にはヘッドホンはひとつしか付いていないので、同時に聴くことができるのは一人だけですよね。なので、「公衆」に聞かせることを目的としているとはいえないんじゃないか?と疑問に思いました。
しかし、調べてみると、「公衆」に聞かせるとは、必ずしも多くの人に同時に聞かせるという意味ではないようです。
たとえば「上映」について言うと、1人しか入れない電話ボックス程度の大きさの箱の中でビデオを上映している場合、「1回に入れるのは1人だが、順番を待って100円払えば誰でも入れる」というときは「公衆向けに上映した」ことになると説明されています。
これについては、弁理士の栗原潔先生の解説がとてもわかりやすかったので、リンクを貼っておきます。(https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20170516-00071009)。
また、CDを再生させているだけなので「演奏」しているともいえないんじゃないか?という疑問も生じますが、著作権法でいう「演奏」とは、生演奏だけを意味するだけでなく、演奏を録音したものの再生(CDやPCに保存した音楽データの再生など)も含むとされています。
ちなみに、①営利を目的とせず、②聴衆又は観衆から料金を受けず、③実演家に対し報酬が支払われない場合には演奏権は働かないとされていますが(著作権法38条1項)、CDショップは「あわよくばCDを買ってもらおう」と思って試聴機を設置しているので、営利を目的としていますよね。そのため、この要件を満たしません。
ですので、試聴機の設置は、著作権(その支分権である演奏権)が働く場面になります。
このように、試聴機の設置には著作権が働くので、原則として、著作権管理事業者への手続が必要となります。
ではどういう手続きが必要になってくるのでしょうか。
JASRACに聞いたところ、JASRACは、当面の間は「管理留保」という形で演奏権の手続と使用料の支払を不要としているそうです。
なので、CDショップは、JASRACへの手続をせずに試聴機を設置することができます!
試聴機にはレコード会社がリリースしている市販CDがセットされていて、その音源が視聴できるようになっていますよね。
ですので、原盤権との関係でも問題になりそうです。
しかし、原盤権は、CDを複製したり、放送したり、インターネット上で配信する場合には働きますが、ただCDを再生するだけの場合には原盤権は働かないのです。
原盤権には、著作権でいうところの演奏権に対応する権利が存在しないためです。
ですので、市販CDを複製したCD-Rを試聴機に入れるような場合でない限り、原盤権は働きません。
今回、試聴機の設置には、著作権(演奏権)が働くこと、しかし著作権の手続は不要であること、原盤権は働かないことがわかりました。
著作権が働くのに、著作権管理事業者の方針で手続不要とされていることもあるんですね。今回はその点が特に勉強になりました。
文責・だいちぃ(監修・弁護士高木啓成)
だいちぃプロフィール
渋谷カケル法律事務所でインターンとして働く大学1年生。
将来、エンターテイメントを扱う弁護士になるべく奮闘中。