身近に潜む音楽 #2「ストリートピアノの著作権について知っておこう」 | 渋谷カケル法律事務所

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身近に潜む音楽 #2「ストリートピアノの著作権について知っておこう」

2022年12月27日

 私たちの生活の中で聞かないことのない音楽。
 その中にももちろん著作権はあり、どこかで流れている音楽をどこが著作権管理しているのか、どのような手続がなされているのか等、ふと感じる小さな”ギモン”を調査していきたいと思います。

 今回のテーマは「ストリートピアノ」です!!

目次

1.ストリートピアノについて
2.演奏について著作権は働くのか?
3.利用主体についての検討
4.まとめ

1.ストリートピアノについて

 ストリートピアノとは、街中・街角などの公共の場所に設置された誰でも自由に弾ける状態のピアノの通称で、最近YouTube等の動画再生サイト上でも人気を博しています。「都庁ピアノ」なんかはとても有名で、有名なものだと再生数1700万回(執筆時)を超えている動画もありますね。
 僕が活動している渋谷でも、渋谷マークシティというデパートでストリートピアノを見つけました。買物客が自由に演奏できるようになっています。

 そこで、ストリートピアノで楽曲を演奏する際に、著作権が働くのか、働くとして誰が手続をしないといけないのか、等のギモンを検討していきたいと思います。

2.演奏について著作権は働くのか。

 まず著作権法22条の条文を見てみましょう。

 このように、公衆に聞かせることを目的とした演奏には著作権者(音楽でいえばJASRAC、NexToneという著作権管理事業者)の許諾が必要なことがわかります。前回の記事でもありましたが、不特定の人が自由に聞けるような場なら、たとえその時聴いている人が1人であろうと「公衆」にあたります。
 そのため、買物客がストリートピアノを演奏する場合には、著作権管理事業者に手続が必要になるのではないでしょうか。
 ですが! ①営利を目的とせず、②聴衆又は観衆から料金を受けず、③実演家に対し報酬が支払われない場合は、著作権が働かず、例外として手続が不要になります(著作権法38条1項)。
 ストリートピアノについては、買物客は営利目的ではなく純粋にピアノを楽しんで演奏しているだけなので、①を満たします。
 また、演奏する際に聴衆から料金を受けているわけでもないので②も満たし、デパート側から買物客(実演家)に報酬が支払われることもないので③も満たしています。
 なので、買物客がストリートピアノを弾く場合、手続は不要となりそうです。
 ただ、ひとつ疑問が生じます。
 法律的に、ストリートピアノを演奏している音楽の利用主体は、買物客なのでしょうか?

3.利用主体についての検討

(1)利用主体はデパート側かも…?
 「買物客がピアノを弾いているんだから、当然そうじゃないの?」と思われるかもしれません。
 しかし、たとえば、カラオケ店でカラオケを歌っているのは客ですが、法的にはカラオケ店が音楽の利用主体と考えられており、そのため、カラオケ店が著作権管理事業者に手続をしています。
 同様に、今回の例の場合も、デパートが音楽の利用主体だと考えるのであれば、デパートはこのストリートピアノを通して間接的な集客になっているといえるので、非営利とは言えないと考えます。そのため買物客が演奏していたとしても、デパート側が著作権管理事業者に手続をしなければなりません。

(2)裁判例を踏まえて
 利用主体についてのリーディングケースであるクラブキャッツアイ事件や、最近話題となったJASRACと音楽教室との判例も参考に、デパートと買物客のどちらが利用主体なのか考えていこうと思います。(音楽教室の判例は、地裁・高裁・最高裁の判決があり、最高裁は高裁判決を支持していますが、今回は、検討の材料にしやすかった地裁判決のみを参考としています。)
 判例では、利用主体について、当該演奏の実現にとって重要な行為がその管理・支配下において行われたか否かで判断しています。(クラブキャッツアイ事件最高裁判決参照)
 「重要な行為」とは、具体的には、音楽教室判例では①楽曲の選定、②著作物の利用への関与の内容・程度、③著作物の利用に必要な施設・施設の提供が重要な判断要素になっていました。本件でも、この3つを管理支配していることが利用主体を検討する上では大事になってくると考えます。

 ① 楽曲の選定
 音楽教室判例では、音楽教室側と生徒側のどちらが楽曲を選定しているかが検討され、音楽教室側が楽曲を選定していると判断されました。
 本件では、楽曲の選定については、デパート側が「この曲を演奏してほしい。」と言っているわけではなく、買い物客が自由に楽曲を演奏しているので、デパート側の管理支配が及んでいるとはいえません。

 ② 著作物の利用への関与の内容・程度
 音楽教室判例では、音楽教室は生徒に対し、カリキュラム指導の為のマニュアルの交付、レッスンガイドの配布等が存在することから、生徒に対し音楽教室の指導理念や方針に従った指導がされていることを理由として、レッスンなどの関与については、音楽教室側から強い管理支配がある、と判断されました。
 本件では、デパート側から「30分以内に演奏を終了してください」などの制限はありますが、これは演奏の中身に影響するような関与ではなく、利用客同士のトラブル回避などの関与に留まりますので、著作物の利用にデパート側の管理支配が及んでいるとまではいえないと思います。

 ③ 著作物の利用に必要な施設・設備の提供
 音楽教室判例では、著作物の利用に必要な施設・設備について、設置しているのは音楽教室側なので、施設・設備については音楽教室側の管理支配が及んでいる、と判断されました。
 本件では、著作物の利用に必要な施設・設備についてはデパート側がピアノを設置しているため、デパート側にも管理支配の一端が及ぶと考えます。

(3)私の考え
 このように、デパート側がピアノを設置しているという事情はありますが、音楽教室の事例とは異なり、デパート側が譜面を用意したり演奏曲を選定しているわけでもありませんし、曲の演奏方法について口出ししているわけでもありませんので、デパートが著作物の利用に直接的な関与をしているとはいえません。
 したがって、私としては、著作物の利用主体はデパートではなく、買物客だと思います。
このように考えると、クラブキャッツアイ事件のようなカラオケの場合も、カラオケ店が利用客の歌唱に対して直接的な関与をしていないのに、カラオケ店が利用主体となるのは整合性がないのではないかという疑問もあります。
 しかし、カラオケ店の場合、利用客は、カラオケ機器のレパートリーの中から曲を選定し、カラオケ機器の演奏に沿って歌うので、カラオケ店が利用客による歌唱をお膳立てしているといえます。やはり、歌唱に口出しするわけではありませんが、カラオケ店による直接的な関与があるといえます。
 そのため、整合性は問題ないと思います。

4.まとめ

 この記事では、ストリートピアノで楽曲を演奏する際に著作権が働くのかなどについて考えました。
 買物客による演奏は、著作権法38条1項により著作権は働かず、自由に演奏することができますが、仮に著作物の利用主体がデパート側だと判断される場合、著作権が働くことになります。
 そのため、著作物の利用主体が重要なポイントとなりました。
 結論として、いくつかの判例を読み、私としては、著作物の利用主体はデパートではなく、買物客側だと考えました。
 この考え方からすれば、「ストリートピアノで楽曲を演奏する際に著作権は働くことは無いし、手続も必要ない」ということになります。

文責 だいちぃ(監修 弁護士高木啓成)
だいちぃ プロフィール

渋谷カケル法律事務所でインターンとして働く大学1年生。
将来、エンターテインメント法務を扱う弁護士となるべく奮闘中。

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